とによつて、さまざまに変形する。いくつにも細かに変形する。
 わたしはこの不可解な友人を、たんに悪徳と怠惰の鳥とは見ない。多く逸楽し、多くの頽廃を知る人間は、多くの人生を知るやうに、わたしはこの悪食の友人を、たんなる鳥類とは見ない、わたしは他のさまざまの鳥類が、やさしく美麗なる羽をひろげて、純情のままに大空をかけめぐる、無心のすがたも愛らしいが、総《あら》ゆるものの、醜悪と腐敗の燐光を放つてゐる。私等人間社会に、もつとも密接な巷の土にきて、わたしらの生活に似かよつた、生活を営んでゐる、愛らしい鴉の感情を憎む気にはなれない。
 ことに彼が、人間にも似た確《しつか》りとした理智の眼をもつて居り、同時に彼が、友人とはげしい争闘をするときは、嵐のやうな激情の、凄まじい男性味をもつてゐる。
 私は彼を憎めない。彼が青い模様のついた、黒いマントを地面に引きずつて、ぴよん、ぴよんと、片足で歩いてゐるすがたを、じつと見てゐると、その黒色のもつ暗示の魅力に、いつの間にか、ずるると引きこまれてしまふ感情となる。


底本:「新版・小熊秀雄全集第1巻」創樹社
   1990(平成2)年11月15日第1刷

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