らくは彼自身も、混濁のない、からつぽの胃袋を、充分にふくらまして、誠意ある朝の祝福をさゝげてゐるのにちがいない。私は彼の有名な悪食家であることを知つてゐる、だから食後の不浄の歌をきくことを好まない、そしていま朝の鴉の、食前の空腹の歌を嬉しく思はれる。
私は三つの鴉のうちで朝の鴉がいちばん好きだ。
いつの間にか、鴉は憂鬱な眼になつてゐた。昼の鴉は、朝のとをめいさとは似てもにつかぬ、疲れきつたすがたをして街の褐色の土のわづかばかり、拡がつた空地に、たくさんより集まつて、其処の窪みの土をさかんに掘り返しては、なにやら赤いものを引き出しては、うばひ合をしてゐた。
あるものは遠くの空から飛んできて、なんのためらひもなく、この争ひの集団の頭上に降りる。だがその鴉は、浪のやうにもみあふ中《うち》に、すぐ隠れて見えなくなる。
この集団から、いくらか離れた、草地を歩るいてゐるのもある。その歩行が妙によち/\とよろめいた、足取りの交叉をみせて、黒煙と音響をあまりに飽食した、都会の中毒者といつた姿だ、其他頸をぴんとあげて、腰をうかせるやうに、調子をとつて歩るいてゐる鴉をみると、黒いマントをきた、不良
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