にも軽快な歩調で、かるく飛ぶやうに、幾分しめつた朝の路上の明るさを、気軽るに歩るき廻つてゐる姿はよい。
ことに遠くの空からとんで来て、私の家《うち》の屋根の、とんがりのところへきて、一二度くるりと輪を画《ゑが》き、太くたくましい足を、充分に宙にのばしてから、その目的物である私の屋根の上に立つ、そして二三度、黒くつや/\とした体を、上下にゆり動かしてから、落ついたみなりとなる。
いつも朝のきまつた時間にきてとまる、そしてきまつた時刻には、どこかに飛んで行つて了ふ、いはゞ私の家の屋根は、彼の旅行にとつては唯一の標識であつて、途中の安息の習慣をつくつたのかも知れない。
彼がこのあまり広くもない、遊歩場に降りたつたときの姿は、ちやうど、遠くばら色の、未明の空を出発し、途中で幌馬車を乗りすてゝ[#底本「て」を変更]、いまこの屋根の上に、葉巻をくゆらすといつた格好で、その気どつた姿で、屋根の上をあちこちと漫歩するすがたが、平民主義の貴族の若様を想はせる。
彼は屋根の上から、清澄の朝の街にむかつて独唱する、ひとびとはこの独唱を、幸福の讃歌《うた》ときく、さはやかに澄んだ、祝福の歌ときく、おそ
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