な海であらう。

夕方になると
私は足を濡らしながら
貝殻を拾つてあそぶ、
乾からびた魚や、
時にはヨーロッパの船具や
色の変つた砂粒など、
波の上には新聞紙が漂つてゐることもある。

殊によつたら日本は
磁力をもつてゐるのではないかと思ふ。
ヨーロッパの友よ、
君等の国から来た渡り鳥が
唯一の休息所である日本に降りた
そして美しい一本の脱毛を私の紀念に
やがてその脚裏には
日本の砂を密着させて出発した。
幾日目かに君達の庭に降り立つだらう。

入江の美しいのは
波の交流の激しさをかたり、
松の堅固なのは風が強いからだ、
友よ、ヨーロッパの友。
日本の不等な称讃を止めよ。
韻律の日本の実体は
海の潮騒のやうな
厳粛沈痛なものと知つてくれ。


祖先の下山

やさしい豪族は
太刀を担ぎながら山を降りて来た。
快活に、傍の道連れと語り合ひながら、
霧はふかく、雲は爛れてゐた。
其処で『日本の不思議な生活』の
深い根幹を地に植ゑた。

依然として、日本の奇怪は今でも存在し
精神の浮橋は、世界の橋に通じてゐる。
昏迷の中に驚嘆の花を咲かせよ、
幾度も私達の住居を再建しよう、
新しい土地へ下山す
前へ 次へ
全47ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング