るのだ、
新しい土地へ。
祖先のやうに明るく談笑しながら。
山の霊気は私のマントをくるみ
その光りの花粉をもつて
夜光虫のやうに飾る、
世界の思想と交媒せよ。
樵夫は高い樹の傘下にある、
轟然と伐採する
樹の枝は爛れた空を掃く
あらゆる日本の神事は
我等の手をもつて主宰せよ。
種族の花
お前の精神は肉体は
ひさしく落葉松《からまつ》の揺籃に眠り
嵐の氷片を餌として暮した、
松の細根は泥土に埋り
あたりは海のやうな苔土帯《つんどら》
湿潤の火は燃える
山猫のやうに痩せてゆく
季節の毒気に萎んでゆく種族の花、
愛奴 愛奴
今日も高巓のななかまど[#「ななかまど」に傍点]の樹に腰かけて
肺患の呼吸に鬚をふるはす。
都会の饑餓
雑踏よ、都会の雑踏よ。
私は終日美しい痙攣のために身悶へし
何処といふあてもなく、
ただ足にまかせて歩み、疲労し、
到る処の街角に休息し、
呆然として、車道、人道いりみだれた、
埃りで組み立てられた十字路に、
まるで獣らしい憎しみをもつて凝視する。
都会よ、私はお前の尻尾を捕へ
お前の尻尾と共に私は転げ廻つてゐるのか。
私の帽子の上の騒音、
ああ、
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