るやうな寂しさを好む

乾いた唇も吹け
しわがれた咽喉も吹け
鼻毛をくすぐるほどの柔かい風に吹かれて
聡明なお前の風にふかれて
私は胸苦しいものを散らすであらう。


かなしき曙

亀裂のなかに立つてゐる
その辺りは曙であるのか
なんといふかなしい曙であらう。

たつたひとつ残つた星もある
河風は胸をうつて
忘れてゐたことを
つぎ/\と想ひ起すばかりだ。

ふたゝび仄明りを迎へて
このしづかな崖を跳ね越えて
私は顫へながら街にでかける。


二人の生活

柔軟な暮しの中から
なにか房々とした葡萄のやうなもの
魚の瞳と連なるものを発見した
そして久しく憎み合ひながら
ともに暮してゐる女あり。

あゝすでにお前と私とは
惰性の深みを手を組んでゐる
お前の意志は向ふの野原に
私の意志はこちらの樹の上に
それで不思議に優しいへだたりを
往来してゐ[#底本の「い」を変更]る可憐なふたり。

繋ぐものは灰のやうな乾いた麻繩ではない
鈴のやうな結晶を渉りあるくものである。
とかくうなだれ勝な頤に手を添へて
たがひに眼を見合すことや
また終日蟹のやうに向ひ合ひ坐つてゐる。

男は怠惰ではない
女よ、そ
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