」に傍点]な鮭皮靴《けり》の足跡は砂金のやうだ
海景
さくらんぼを喰べたい海の色よ青い色よ
まなつのうみの風の色よ
みな眼にしみる静かなる海景にたつて
わたしは女のふとももの肉をかぢつたので
わたしの義歯は
とけてながれて飛んでしまつた。
あんな浅瀬に
食慾をそそる赤い魚を二ひき
もつれあつて泳がしてをくのは危険だ
石を水に放つてやれ。
涼しい帆前船が浮んでゐる沈んでゐる
大きくふくれたり。小さくちぢまつたり
黄色い積荷がぴかぴか光る。
海いつぱいにひろがつてゐる軍艦に
しろいしやつぽ[#「しやつぽ」に傍点]がいちれつに
いかにも退屈に左右にならんでゐる
ずどん……と大砲を撃つてやつたら
兵隊がまりのやうにとびあがるだらう。
太陽がくるくる廻つてゐる真夏の海景に
わたしの貧乏までが水浴がしたいと
口からとびだして白眼を要求した
こんなぜいたくな海景は消えてしまへ
わたしにとつては無益の風景だ。
蝦夷
私の蝦夷は蠢めきにある
四周は荒海
寒冷の白さに凍えてしまひ
惨苦は四季に
慈母よりも柔和にめぐり来つて
五体は燃え尽きさうだ
憂悶の暮色に立つて
季節を愛する男
痩白
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