濃霧《がす》の街を
げらげら笑つて直白な
女が通つた……春だ四月だ
炭坑夫と月――夕張印象――
ああ 私の亀裂をまさぐる斜坑の上の地面で
たくさんの青い松の眼球を拾つた夕暮れです
まぐねしゆうむ[#「まぐねしゆうむ」に傍点]とだいなまいと[#「だいなまいと」に傍点]を
喰《くら》つた亭主の股引が
ほんのり桜のやうに干されてゐた日没ころ
そろそろと月が昇つてしまつた
…………
淫売屋《ごけや》の小格子から
空をながめる私の炭坑夫
ちらばつてしまつた紫外線を
いくら喰つても
肺患のなほらない月である
…………
とろつこ
とろつことろつこ
明日はまた運搬の作業である
愛奴憐愍
ああ見れば見るほど
悲しい歩行であつたか
砂地のすばらしく巨大な足跡、
河原で銀斑魚《やまべ》を乾し
岩魚《いわな》の奇怪な赤腹をもて遊び
猿蟹を石に砕いて嬉戯した時代からの
部落《こたん》に満ちあふれた誇も消滅した、
私の憐愍はお前の足跡に
かんぞ[#「かんぞ」に傍点]の花に降り注ぐ雨のやうだ
ああ年々《ねんねん》お前の仲の善い鮭《あきあじ》は死産し
河原の砂の巨大な赤児
ぼつこ[#「ぼつこ
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