の頬に手を触れて
存分に神に憎まれて笑つてゐる
海は絶えず新らしい匂ひを漂はし
砂丘を掘れば
春秋の夜光珠探しあてる。


北国人

四季の蒼穹
偉大なる顔の中の眼だ
そこに闘ふ男は血である

頭脳は棍棒のやうに重み
心臓は石斧の閃き
ああ我等北方人の頭上には
砧のやうに澄んだ蒼穹がある

或日は砂金を含むだ嵐
或日は霜花と濃霧の日
或日は野火の草木は炎上し
或日は清朗とした盆花の吹雪となる

我等よ
石斧と棍棒の進軍
久しく自然の肌を闘伐するもの
四季の蒼穹に生活し
期節の忍苦に呼吸するものは肥大となる


妊娠した石

月は実にたかく昇つた
くまどられた白銀の樹林の上に。

白い偉大な空地に
死よりも静かな石が
火のついた赤児のやうに
鋭い陣痛に泣き叫び
直立した感情はあくまで激動する。
春よ、
来よ、
受胎におののく圧迫と寒冷の季節から
石と石との間に
青いいのちの燃える日を、


無神の馬

私の虚無は
悔恨の苺を籠に盛つてゐる
私は喰べながら笑ひ泣き悲しみ怒り
朝日が昇るとけろりとしてゐた

愛するものは貝殻のやうに
脊中にしがみついて離れない
愛は永遠の喜ばしい重荷だ


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