ローランサンの女に贈る――一九二四、一――
新聞紙
けさも私は寝床のなかで
不眠症と神経過労の眼を動かし
病院船の
患者のやうにをちついて
文明病の処方箋を読みました
そこに盛られたさまざまの薬
恐怖と醜悪の散楽
みな利きめの
ありすぎた人々の報告です。
強盗殺人犯の脱監
密通した令夫人
鉄道線路の飛び込自殺
××氏の毒物嚥下
山林中の強姦未遂。
しづかな朝の単調に
わづかな胡椒を
振りかけたばかりの食膳
私の味覚はそんなぐらゐの
甘つたるい料理は
喰ひあきた舌なのです
もつと もつと
腕利きのコックを雇つて下さい
この現代の味覚は
もるひね愛好者の
たゞれた舌です
ねばりこく脂こい
情感にふるへるやうな
わたしは料理をのぞむのです。
私の愛読する処方箋よ
もつと奇抜な
構想の報告をしたりしたいのです。
散文詩 泥酔者と犬
酔ひしれた足取りは螺旋階段を廻るやうななかば快感と不安の平地を私はよろよろと泳ぎ出した、街は真夜中の沈思でろくでもない情念のトランプの真最中だらう、どこの屋根屋根の角度を仰いでも妙に糞落つきに沈着な冷たい陰影の中に三角の眼をぐるぐると廻転さしてゐるし電
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