は醜い片足のきずぐちを見せ
場末のやせた女はぼてれんの腹をつきだし
囚人は鎖をがちやがちやならし
病んだ男はくぼんだ眼《まなこ》をひからせて
みんな……みんな……みんなで
街を歩いてくれ
あの高塀のめぐりをぐるぐるめぐり
お金もちの旦那様や奥様がよつくねむられるやうに
死と、貧乏と、あきらめのねんねの唄を歌つてやれ
追憶の帆舟は走る
ふるへたたましひをこぎよせ
なみ間にただよふ
真珠のかけらをひろはん
つい憶の帆舟は
つい憶のかぜをはらんで
あれ…まつしぐらに沖に向つてはしるではないか
あの水のひろびろとかぎりなくそのゆく手のさいはてはまつくらで
ならくの渦をまいてゐる
船頭はなみだをながし帆づなをとり
船客はおりかさなつて泣きねいり
しづかにあきらめの小唄をくちずさみ
ああ……
けふもはやてに乗り浪のうねりを
矢のやうに
めあてなき帆舟ははしる
北国人と四月
四月の北国《ほつこく》はうれしい
みな雪がとけてゆくから嬉しい
なかには福寿草が生きてゐるのだよ
雪はさまざまの断面をもつてゐるなつかしい
冬の層をつくつて居る
お日さまもむろん俺等の味方で
けさも雪どけの雨を降らし
前へ
次へ
全47ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング