唇をひらいた
をんなはごつくりと
唾をのみこんだ
眼をほそく体をゆする
  悪魔は歌ふ
あの馬鹿げた情慾はなんだ
あのなまぬるい笑ひはなんだ
さあさあみんなで
たくさんの青いろうそくに
灯をともし
ほてつた女の顔をてらしてやれ
ほてつた男の顔をてらしてやれ
あの馬鹿げた情慾を笑つてやれ
硝石を摺る
尻尾《しつぽ》のないやせ犬が
藁小屋の中にそつとしのんで
そのまゝ
舌をべろりとだして
かがまつたまゝ死んでゐる
屍体の胃袋になんにもない
   ×
おや……それはなんでもない
あたりまいのことだよ
   ×
かん、かん、かん
帽子をかむらぬよぼよぼの
男をてらし
真夏のお日さまは
すきつ腹をいらだゝせる
男はあを向けにひつくり返つて
かがまつたまゝ死んで居る
   ×
おや……それはなんでもない
あたりまいのことだよ
   ×
ぎら/゛\/゛\
狂く[#「く」に「ママ」の注記]はしくよく光るまさかり
街角でそつと獲物を待つても
から、から、から
だあれも見えない地下室で
そつと
擂鉢で硝子をすつても
   ×
おや……それはなんでもない
あたりまいのことだよ
ねんねの唄
癈兵 
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