るかも

現世に大根が生きてゐることのお可笑かりけりうごかぬ大根

夕闇のなかにましろくつみあげし大根がみな土にきえゆく


月夜

あゆみつつ夜更の空をみあぐれば電信柱にかかる月かも

らんらんと尊とや月はまづし家の屋根いちめん照らすなりけり


さびしさ

そのかみの悪性《あくしよう》男なきてをり女供養《くよう》と泣きてをるなり

たえまなく胸の扉《とびら》をあかき衣《い》の侏儒《しゆじゆ》らけふしもたたくなりけり

八畳のそのまんなかにあかき林檎ひとつころがしみつめたるかも

わかき我なにのはずみかしはがれし悪魔の声しはつとおどろく

ひたすらにわが身いとしと銭湯《せんたう》に脚気《かつけ》の脛《はぎ》をさすりけるかな

かなしきはここの酒場のこのブランあまりに弱き味覚なるかも

むらさきの縁取《へりと》りコップたちのぼるココアの湯気のしろき夜かな


丘に立ちて

ひとり死ぬるさびしさなどをおもひつつ狭霧《さぎり》の丘にたちつくすなり

丘にたちしみじみ夕日あびにつつ満《み》ち足《た》らふまでなきにけるかな

なきなきていささかひもじくなりければ草の実つみて頬ばりしかな

荒磯
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