ふきかけて見はみつれども

なにがなしに素足となりてわが街をあゆむこころのおきにけるかな

町角の湯屋にうどん華《げ》さきしてふ噂もいつかきえにけるかな

朝顔は咲きて萎《しぼ》みてくりかへしころりと鉢に散りにけるかな

さてこれよりいづこにゆかむ十字路に立ちてあたりを見まはせしかな

少年のこころとなりて石塊《いしころ》を路上ころころころがしてゆく

街なかにあたりうかがひ呼子笛ひとふきふけばこころおさまる

谿越えてあの山こえて帰るてふ飴屋おもへば笛きこえ来し

かつかつと足音たかく橋の上人形のごとうごく兵隊

つつましく日本《にほん》のをんな菊の花もちて街ゆくふさはしきかな

嘘つきのたくみの友とさ夜ふけに語《かた》りあひけりうそとしりつつ

子らがみな一列にならびつぐみたる口元みればお可笑かりける

鳥さしの児の帽子のひさしま日をうけしろく輝やきうごかざるかも


尾張屋爺 思ひ出

杣夫なる尾張屋爺はさむらいの成《な》れの果《は》てなり剣術を知る

新聞をまるめて爺と仕合しぬをりをり禿をたたくなりけり

杣夫なる尾張屋爺はさむらいの成れの果てなり忍術を知る

忍術をみせよと爺
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