場のしじまに骨を拾ふなりけり

友の歯をひとつふたつとかぞへつつ白木の箸にひろふ火葬場

友焼きてかへる花野の細道に草鞋《わらんぢ》の紐とけにけるかな

杳かなる花野のもなかいつぽんのすぐたちの木に烏とまるも

火葬場は曼珠沙華《ぼんばな》の秀《ほ》にかくれたりはるかにしろきけむりたつ見ゆ

夕ざりて河のどよみを茄子の馬胡瓜の馬が流れたりける


十字路

朝の陽は障子《しようぢ》あかるくいちめんに照りかがやけばまなこくらみぬ

ひたすらに爆竹をうつなりわいをしてみたき日ぞ空をながむる

朝まだき靄にきこえてすがすがし法華《ほつけ》の太鼓しづかなるかも

にんげんにうまれしといふ悔恨をつくづくかんぢ涙ながしぬ

にんげんの子がうまれしと紅白《こうはく》のまんまろの餅《もち》おくり来しかな

朝の湯のくもりがらすに女湯のをんなのあたまうつりけるかな

からんからん茶椀をならしみつれどもさびしさ癒《いえ》ずひとり飯《いひ》食む

ひからびし手をもて母が炊ぎたる尊《たふ》とき飯《いひ》ぞしみじみと食す

一すぢのしろき道なりそのかみは君と手をとりすぎし道なり

路のべの赤き小石をてにとりて息
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