れいろあざやかにこぼれあるなり

たえがたきうらさびしさにゆきずりの野草にふれぬ露にぬれつつ

みかへればはるかわが村一望のうちにおさまり河遠白く

らんまんに盆花さける隣国に一歩ふみいれなみだながしぬ


雑詠

朝の湯の湯気のくもりに老人がしんじつひたり念仏もうす

土手にゆけば土手の臭《にほ》ひのかなしけれ萌えてまもなき青草の土手

ダッタンの海のくろきに白鳥のうかべば羽のそまるとおもふ

春の夜の窓の硝子に頬よせて海のあかりにみいるなりけり

ひつそりとあたりしづかに風凪ぎの海のなぎさに砂音きこゆ

船子どもは声をそろへてくらがりの沖に夜網をおこすなりけり

ぬば玉の闇にかがり火たく船のふなばら赤く海にうつれり


晩秋の街

苦心して男のはりし赤きビラいま風きたりはぎてゆけるかも

十字路にけふもかがまりくるい女《め》はごみ箱のかげあかきもの食《は》める

犬の顔まぢまぢみれば犬もまたまぢまぢわれのかほをみしかな

すたすたとまぢめの顔しくろき犬旅するごとく街あゆむかな

なかなかに朝靄はれず酒造場の大いなる桶の箍うつきこゆ

大道のせともの売は皿と皿すりてさびしき音たてしか
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