のうれしき糧は酒なり』とまなこにつげといふはわれなり

この床に踊りつかれてねいるごといのちをはれば満足ならむ

こもり居て親をおもへば金鼓《きんこ》うち踊るわれなり歌ふわれなり


聖人《ひぢり》のまね

日の落つる丘に手をくみ眼をつぶり聖人《ひぢり》のまねをなしにけるかな

まねなれど聖人《ひぢり》の真似《まね》のたうとけれ海にむかひておもふことなし

めをつぶるひぢりの腹にしんしんとさびしくひくく潮鳴りきこゆ

にせものの聖人は腹のすきければ聖人をやめてたちにけるかな

眼ひらけば入日は海にひろがりてあかくするどく眼に沁みしかな

にんげんのこころとなりてたちあがり着物の土を払ひけるかな

つぶる眼のまぶたあかるく入つ日は海にかがやきしづかなるかな


潜水夫《もぐり》

寒天をたたえしごとき重々し海のうねりに潜水夫《もぐり》あらはる

みな底のもぐりの男かなしけれ妻のポンプをたよるなりけり

築港《ちくこう》の真昼の砂にさかしまに潜水夫《もぐり》の服のほされたるかも

ぶくぶくと水面に泡《あわ》のたちければ潜水夫の死ぬとおもひけるかな


国境

山道に赤き苺《いちご》の雨にぬ
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