ひそかにけだものの子のその親の柩は門をいでにけるかな

入りつ日のかがやく野辺のさいはてにあかき柩はかくれたるかな


河豚《ふぐ》の腹

ひろがれる靄うみにみち沖のへに鐘鼓ひまなくなりしきりなり

あまりにもいろ濃き空よ見つむれば紫紺《しこん》堕《お》つるとおもはるるかな

海ぎしに河豚の腹などたたきつつこどもごころとなりにけるかな

なぎさにいで貝のかけらを千万にくだけど遂にけむりとならず

童子らは青藻のかげの夜光珠《やこうしゆ》の粗玉《あらたま》などをさがすなりけり

鶺鴒《いしたたき》ひねもす岩に尾をたたき砂地《すなぢ》だんだんくれにけるかな


悲しき夢

支那人は黄なる歯をみせ鞭《むち》をあげさてこれよりと言ひいでしかな

ぬば玉の闇よりぱつとあらはれし青き男はわれなりしかな

いろ青き天鵞絨服《びろうどふく》のつめたさを素肌にきれば秋が身にしむ

ましろなる顔の瞼《まぶた》をくまどりて鏡にむかひ笑ふわれなり

窪みたるまなこしみじみ愛《いと》ほしと鏡にむかひ摩《さす》るわれなり

くるはしき踊りにつかれ天鵞絨《びろうど》のゆかに倒れてねむるわれなり

『現身《うつしみ》
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