娘と知るも

昼よりも明るきほどの月夜なりおもひ消せども浮びくる顔

あふむきてふくゴールデンバットの煙りなり北海道の重き夜具かな


(3)美瑛村に泊る

山は雪、町は暑さのはげしさよ美《び》瑛の人はおだやかにして

硫黄山暁かけて段落《たんらく》にクリイム色の靄はかゝりぬ

朝あけのもやにうつなり大太鼓十勝の原は肌寒くして

師団山、兵ら斜面のトーチカにうてやうてうて気のすむまでに

とをくより就寝ラッパきこゆなり夜眼にもしるき白つつじの花

夜の更けの警備の兵の着剣を青くてらすはタングステンの月

はたとやむ蛙の声よ旅に来て美《び》瑛の街の中天の月

(4)塩狩駅にて

平原の百姓小屋の物乾しのこれが人間の着る着物かな

この冬は薪木とる山なしといふ北海道の百姓の暮らし

眼をもつて追へどはてなきこの原のどこに行つても鮮人がゐる

鮮人よ、日本のユダヤ、さすらひて口と土地とに生きつづくなり

親切をつくせる女しほかりで下車てしまへりそれきりのこと
(塩狩駅にて)

慾望の果てに疲れて旅すれば眼にうつりしはとき知らずの花

朝やけは朱と紫のだんだらに山を染め分け明けんとするも


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