き壺などかなしめるかな

科《とが》もなき妹《いも》をしかりしそののちのさびしきこころ夕雲をみる

この弱きをとこの血潮吸はむとし夜蚊はせまりぬ眉の間に

去《い》ねといひ去《い》なぬといひてかの君と争そひしこともうれしきひとつ

ゆるせ君きみ魔となれと山奥に大樹たたきて呪ひたること

この花を愛すといひて白薔薇に触るれば花のちるがかなしき


疎林落陽

うらがれの林にたてばしんじつに露はつめたくおもはれしかも

うつくしく疎林《そりん》くまなく陽はてりぬここにをとこは首くくりせむ

うつうつと林にいれば蔓草《つるくさ》の首くくりせといひにけるかな

首くくれば親がなくぞとたれさがる蔦《つた》にむかひていひにけるかも

かなしかるものの化身のみえかくれひそかにわれにせまるとおもふ

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その他短歌

炉石を弄る

瘡《きず》つきし野獣の如き風鳴《かざな》りの
心細さよ
炉の石をいぢる
   ×
なるがままに
委《まか》してをけといふ情《なさけ》なき
心となりし二三年かな
  
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