るかな

児らふたり霞網もちむかつ山にうごけるがみゆ真白き帽子

みはるかす畠のあら土うねうねを赤くくまどり陽は落ちにける

どよもして汽車はすぎにけるそのあとはあたりしんしん静かなるかも

土手下に蛙《かはず》ころころなきいでぬさみしらにまた口笛をふく

やめよ子等しら樺の樹のかははぐをいたいたしきぞあかき肌みゆる

樹の樹皮《じゆひ》に木虫みつけぬ児ら焼きてよろこびて食《は》む疳の妙薬


幻影の壺

ましろなる沼の白鳥とろ壺にまぢかくをりて壺みかへらず

もろもろのけだものどもは泥壺をまるくとりまき吠えにけるかな

赤猫のあやしき舞ひにどろ壺はかすかにかすかにゆらぎけるかな

そのかみは蛇《じや》は壺をいだき死せるかな青き蛇紋のうかびあるなり

どろ壺の底をのぞけばむらさきのかなしみの精たまりあるかな

しんしんともろ手につたふ泥壺のどろのぬくみのなつかしきかも

彫刻のなきどろ壺はなめらかに青くさびしく月にひかりぬ


養鶏場にて

雌鶏はゆきつもどりつ鶏小屋に陣痛するとなきにけるかな

めんどりは陣痛するとみづからの腹のにほひをかぎにけるかな

どよもしてみな走りゆくにくらし
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