しも

壁土をこねる男のさむげなる素足をみつゝすぎにけるかも

はるか来てふとみかへれば壁土をこねる男は煙草すふなり

壁土をこねる男の顔みしが顎鬚《あごひげ》のみのみゆるなりけり


旅愁の歌

誰にともなくほほゑみなげて船橋をわかき女の降りけるかな

憂鬱のなすことつきて謹厳のをとこも小唄うたふ船旅

船人はかなしき鐘鼓《しようこ》うつになれたくみにうちぬ小能登呂岬《このとろみさき》

こんぺきの海の平らさ波しろくゆくともみえずランチはしりぬ

少年の日の積木のごとくあたらしき家々みゆる真岡の港

あまりにも草の色よく海岸にみいりてしばしふるさとおもはず

親すてしかなしふな旅船底にかへれかへれと潮騒きこゆる

ふるさとにみゆるに堪へず船室にいれどかなしや丸窓にみゆ


風鈴と風

炎天や風なきまひる風鈴をつるせば風の起りけるかな

あまりにも四周しづけく魔人きてゆりうごかせよこの天地《あまつち》を

あまりにも四周さびしく風鈴を買はむこころの起きにけるかな

風鈴のゆれるをみつつしみじみと解熱《げねつ》の薬のみにけるかな


咲ちやん

いきどほり心《うら》にしもて裏の児の咲ちや
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