経済にも喰べた物を片つ端しから盛んに吐きだした、そして吐き気が二ヶ月もつゞいたのであつた。
――殴るなら殴つてご覧、吐くものがなんにも無いんだから、血を吐いて見せますから。
事実血を吐かうとおもへば、吐けるらしかつた。
女の感情は、毎日猫の瞳のやうに変つた。
女などゝいふものは理由なしによく泣くものではあるが、この数ヶ月間は殊に理由なしに泣つゞけた。
この妊娠の期間、俺は彼女に馬車馬のやうに虐使された。
胎児と彼女の臍とは、長い管のやうなものでつながつてゐて、高いところに、彼女が手を挙げるやうなことがあると、ばちんと音がして、臍の緒が切断され、腹の中の赤ん坊は死んでしまふと、彼女は脅かしたのであつた。
俺は仕かたなく棚から摺鉢や片口などの重いものを、をろしてやつたり、漬物石をとつてやつたりしなければならなかつた。
重い物は男たちが持つてやらなければならないなどといふ家憲のある家庭もあるさうだが、俺はそんなことはきらひだ、殊に幸なことには彼女は俺より大力であつたから。
しかし妊娠してから女は急に力が抜けてしまつたのだ。
(四)
腹の中の子供に、聖書を読んで
前へ
次へ
全14ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング