習慣になるもんですよ。
 彼女は真から迷惑さうに、俺の機嫌のよい時に、顔色を窺ひ[#「窺ひ」は底本では「窮ひ」]/\かういふのであつた。
 女といふものは、何程聡明であつても、何処かに愚鈍な半面をもつてゐるものである。
 ときにはこの愚鈍が『女らしさ』やら『情緒』やらに掩ひ隠されてゐる場合が多いが、それは彼女達が着飾つて路を歩いてゐるときの場合だけであつて、彼女達が家庭にはいると、愚鈍のまゝに、いたるところで醜く暴露されるのである。
 その時『ぽかり』と俺は一撃を彼女の頭上に――飛ばすのであるすると女はこの問題を直ぐに氷解してしまふ。
 噛んで含めるやうに、色々の方面から、解いてきかしても、どうしても理解しない場合、これは彼女達ばかりとはいへまい、男達の場合にも
『不意に襲ふもの』があれば、いつぺんに何もかも判つてしまふものらしい。
 ――不意に襲ふもの。
 俺自身も、その問題も判然としないものに悩み苦しんでゐる。
 しかし俺はすつかり安心をしてゐるのだ、俺の顔が、実に美しく蒼ざめた時、背後から『不意に襲ふもの』のある瞬間に、俺はすべてを解くことができるであらうと信じてゐるからである。
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