二の両篇[#「第十二の両篇」に傍点]をなしている。
 この第十二篇の中には、真空放電[#「真空放電」に傍点]や火花の事も出ているが、この研究を引きつづき行って、その結果を一八三八年三月[#「一八三八年三月」に傍点]に発表した。(「電気の実験研究」の第十三篇[#「第十三篇」に傍点])。この時真空管内で、陰極に近い所に暗い部分があることを発見した。これは今日でも「ファラデーの暗界」と呼ばれているものである。
 またこの論文の中に「球に正電気を与えて一定の方向に動《うごか》すと、丁度その方向に電流が流れているのと同じ作用を生ずるだろう」と書いてあるが、これは二十八年後に[#「二十八年後に」に傍点]、アメリカのローランドがそのしかる事を実験上に証明した。実際電子論では、電子が運動するのが電流なり[#「電子が運動するのが電流なり」に傍点]、と見做《みな》している。

     一五 その後の研究

 次には、電気力[#「電気力」に傍点]並びに磁気力[#「磁気力」に傍点]の関係(発表は一八三八年六月[#「一八三八年六月」に傍点]、「電気の実験研究」第十四篇[#「第十四篇」に傍点])。その次は電気鰻[#「電気鰻」に傍点]の研究で、他の電気と同様に磁気作用もあり、火花も出すし、化学作用もあるということを発表した。それは同年十二月[#「同年十二月」に傍点]である。(同第十五篇[#「同第十五篇」に傍点])
 かように、研究を出してはおったものの、身体が段々と衰弱して来たので翌一八三九年には、秋まで研究を止めて休養し、その後に電池の起電力[#「起電力」に傍点]の研究にかかった。これが「電気の実験研究」の第十六および十七篇[#「第十六および十七篇」に傍点]になっているもので、前者は一八四〇年二月[#「一八四〇年二月」に傍点]、後者は同三月[#「同三月」に傍点]に発表した。
 元来、電池の起電力について、相異なれる二つの金属の接触によりて起るという説と、金属と液体との化学作用によりて起るという説とあった。ファラデーは電気作用と化学作用とは両々相伴う[#「両々相伴う」に傍点]もので、かつ比例する[#「比例する」に傍点]ことを示した。化学作用がなければ電気作用は起らず、されど相異なれる金属を接触させなくとも、電池を作り得るという例までも示した。
 一八四〇年の九月十四日[#「九月十四日」に傍点]よりは実験を止めて、約二個年ばかり休養し[#「約二個年ばかり休養し」に傍点]た。その後ちょっと水蒸気が他の物と摩擦[#「摩擦」に傍点]するために電気の起ることを研究したが、(一八四三年一月に発表、「電気の実験研究」の第十八篇[#「第十八篇」に傍点])、これを以てファラデーの研究の第二期を終るのである。この次の研究は一八四五年の半《なか》ば過ぎからで、第三期として述べる。
「電気の実験研究」の第一巻[#「第一巻」に傍点]には、上の第十三篇[#「第十三篇」に傍点]までがおさめてあって、一八三九年[#「一八三九年」に傍点]に出版した。全体で、五百七十四|頁《ページ》ほどある。
 第十四篇[#「第十四篇」に傍点]から十八篇[#「十八篇」に傍点]までと、これにずっと以前に発表した[#「ずっと以前に発表した」に傍点]電磁気廻転の論文や、電磁感応の発表のときに、イタリア人のノビリおよびアンチノリが出した論文をファラデーが訳し、それに自身の反論を附したものや、またこのときゲー・ルーサックに送った長い手紙や、その他の雑篇を集めて第二巻とした。三百二頁あって、出版は一八四四年[#「一八四四年」に傍点]である。それゆえ、おもなものは第一巻に集っていることになる。

    第三期の研究

     一六 光と電磁気との関係

 この前、十年間の研究に際して、ファラデーの心を絶えず指導して来たのは、自然界の種々の力は互に関係ありと[#「種々の力は互に関係ありと」に傍点]いうことであった。その一つとして電磁気と光との間[#「電磁気と光との間」に傍点]に何にか関係があるという予想は、ファラデーが五年間休養している間に、段々と円熟して来た。
 ファラデーは健康が回復すると、一八四五年[#「一八四五年」に傍点]には再び研究にかかり、八月三十日[#「八月三十日」に傍点]から電磁気と光との関係につきての実験をやり始めた。
 まず電気分解をなしつつある液体の内に偏光[#「偏光」に傍点]を通して見たのであるが、この際、いかなる作用が起るかを予期しておったかは明かでない。ただ手帳には、
「長さ二十四インチ、幅一インチ、深さ一インチ半のガラス函を取り、この内に電解質の液体を入れ、電気分解をなしつつある間に、種々の条件の下に偏光を通じて試験をした。」
と書いてあるのみである。
 電極には白金を使い、液体には硫酸ソーダを用いたが、結果は出て来なかった[#「出て来なかった」に傍点]。そこで、液体をいろいろと変えて、十日間[#「十日間」に傍点]実験をつづけた。その間に使ったのは蒸溜水、砂糖の溶液、稀硫酸、硫酸銅等であった。それに電流も、偏光の進む方向に通したり、これに直角に通したり、なおこの電流も、直流を用いたり、交流を用いたりしたが、それにも関わらず[#「それにも関わらず」に傍点]、少しも結果が出なかった[#「少しも結果が出なかった」に傍点]。
 そこで実験の方法を変えて、固体の絶縁物[#「固体の絶縁物」に傍点]をとり、静電気の作用[#「静電気の作用」に傍点]の下に置いて、この内を通る光に何[#「光に何」に傍点]にか変化が起るかと調べ出した。
 最初にやったのは、四角なガラスの向い合った両面に金属の薄片を貼りつけ、発電機の電極につなぐと、ガラスの内部を通る偏光に、何にか変化が起るかと調べたのであるが、やはり変化は見えなかった[#「やはり変化は見えなかった」に傍点]。
 それからガラスの代りに、水晶、氷洲石《アイスランド・スパー》、重ガラスを用い、またタルペンチン、空気等も用いて見、なお偏光も電気力の方向に送ったり、これに直角に送ったりした。さらに静電気のみならず、電流にして速い交流も使っても見た。しかし、いずれの場合にも作用は少しも無かった[#「作用は少しも無かった」に傍点]。

     一七 磁気に働かるる光

 そこで、電気力の代りに磁気力[#「磁気力」に傍点]を用いたところ、今度は直ぐに成功した[#「今度は直ぐに成功した」に傍点]。その道順は、
「一八四五年九月十三日[#「一八四五年九月十三日」に傍点]、
「今日は磁気力で実験をやった。これを透明な種々の物体に、種々の方向に通し、同時に物体内を通した偏光をニコルで調べた。」
 この種々の物体というのは、空気、フリントガラス、水晶、氷洲石で、朝から一つ一つ取りて試み[#「朝から一つ一つ取りて試み」に傍点]、また磁石の極を変えたり、偏光を送り込むニコルの位置を変えたり、磁石をつくる電池を強くしたりしたが、どうしても作用が無い。そこでファラデーは最後に重ガラス[#「最後に重ガラス」に傍点]を取った。これは以前、光学器械に用うるガラスの研究をしたときに作ったものである。
「重ガラスの一片、その大さは二インチおよび一・八インチ、厚さ〇・五インチ。鉛の硼硅酸塩。これで実験した。同じ磁極または反対の磁極を(偏光につきていう)両側に置きて、直流並びに交流で実験したが、結果は見えない。されど反対の磁極を一方の側に置いて実験したら、偏光に作用した[#「偏光に作用した」に傍点]。これによって、磁気力と光とは互に働き合うことを知り得た。これは非常に有望のことで、自然界の力の研究に大なる価値があるだろう。」
と書いた。
 それから四日間休み[#「四日間休み」に傍点]、その間にもっと強い磁石を他から借りて来た。これで実験したところ、著しく作用が現われた。かつ磁石の作用は偏りの面を一定の角だけ廻転さすので、この角は磁気力の強さにより、また磁気力の生ずる電流の方向によることも発見した。
 そこで、前に成功しなかった種々の物体を取って再び試みたところ、どれもこれも好成績を示した[#「好成績を示した」に傍点]。
 十月三日[#「十月三日」に傍点]には、磁場に置いてある金属の表面から反射する光[#「反射する光」に傍点]につきて実験し、鋼鉄の釦《ボタン》ではその面から反射する光の偏りの面が廻転するようであった。しかし、この釦の面はごく平かでないので、結果も確実とは言えなかった。
 磁場に置いてある金属の面で光が反射する場合に、偏りの面の廻転することは、後にケルが確かめた[#「確かめた」に傍点]。ケルの効果[#「ケルの効果」に傍点]と呼ばれるのがそれである。
 十月六日[#「十月六日」に傍点]には、ガラス瓶に液体を入れ、これを磁場に置いて、何にか機械的または磁気的作用[#「機械的または磁気的作用」に傍点]が起りはせぬかを調べたが、これも駄目であった[#「駄目であった」に傍点]。
 次にファラデーは、磁気が光に作用するからには、反対に光から磁気を生じ得る[#「光から磁気を生じ得る」に傍点]のではあるまいかと考えた。十月十四日は[#「十月十四日は」に傍点]幸いに太陽が強く輝いておったので、この実験を試みた。コイルに作った針金を電流計につないで置き、コイルの軸の方向に太陽の光を導き入れたので、初めにはコイルの外面を葢《おお》うて内面のみに日光をあて、次には内面を葢うて外面にのみ日光をあてた。いずれも結果は出て来なかった[#「結果は出て来なかった」に傍点]。
 それからコイルの内に磁気を全く帯《お》びない鋼鉄の棒を入れ、これを日光にさらしつつ廻して見たが、やはり結果は無かった[#「やはり結果は無かった」に傍点]。
 ファラデーがかようにいろいろとやっても見つからなかった作用も、後には器械が精密になったので、段々と見つかった[#「段々と見つかった」に傍点]。その二、三を述べよう。セレニウムは光に[#「光に」に傍点]あてるとその電気抵抗が変る。また光にあてて電流を生ずる[#「電流を生ずる」に傍点]ものもベッケレルが発見したし、かつ菫外線を金属にあてると、金属から電子の飛び出ることもヘルツが発見した。
 さてファラデーは、以上の研究をまとめてローヤル・ソサイテーに出したのが、一八四五年十一月六日[#「一八四五年十一月六日」に傍点]のことで、これが「電気の実験研究」第十九篇[#「第十九篇」に傍点]になっている。表題には、「光の磁気を帯ぶること」または「磁気指力線の照明」というような、妙な文句がつけてある。

     一八 磁性の研究

 ファラデーのこの論文がまだ発表されない前に、ファラデーはまた別の発見[#「別の発見」に傍点]をした。すなわち十一月四日[#「十一月四日」に傍点]に、先頃他から借りて来た強い磁石で、前に結果の出なかった実験を繰り返してやって見て、好成績を得た。それは普通に磁性が無い[#「普通に磁性が無い」に傍点]と思われている種々の物体も、みな磁性がある[#「磁性がある」に傍点]ことを発見したのである。これも第一番に、前の重ガラスで発見[#「重ガラスで発見」に傍点]したので、ファラデーの手帳に書いてあるのにも、
「鉛の硼硅酸塩、すなわち重ガラスの棒を取った。これは前の磁気の光に対する作用を研究するときに用いたもので、長さ二インチ、幅と厚さは各々〇・五インチである。これを磁極の間に吊して、振動の静まるのを待つ。そこで電池をつないで磁気を生じさせたから、ガラスの棒はすぐに動いて[#「動いて」に傍点][#「すぐに動いて[#「動いて」に傍点]」は底本では「すぐに動い[#「に動い」に傍点]て」]廻り出し、磁気指力線に直角の位置に来た[#「直角の位置に来た」に傍点]。少々振動させても、ここで静止する。手でこの位置より動しても、すぐに元の所にもどる。数回やっても、その通りであった。」
 これから種々の物体について、やって見た。結晶体、粉、液体、酸、油。次には蝋《ろう》、オリーブ油、木、牛肉(新
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