、他の感覚もまた鈍って[#「感覚もまた鈍って」に傍点]来、一八六五年から六六年と段々にひどくなるばかりで、細君と姪のジェン・バーナードとが親切に介抱しておった。後には、自分で自由に動けないようになり、それに知覚も全く魯鈍になって耄碌し、何事をも言わず、何事にも注意しないで、ただ椅子によりかかっていた。西向きの窓の所で、ぼんやりと沈み行く夕日を眺めている[#「ぼんやりと沈み行く夕日を眺めている」に傍点]ことがよくあった。ある日、細君が空に美しい虹[#「美しい虹」に傍点]が見えると言ったら、その時ばかりは、残りの雨の降りかかるのもかまわず、窓から顔をさし出して、嬉しそうに虹を眺めながら、「神様は天に善行の証《あか》しを示した」といった。
終に一八六七年八月二十五日に、安楽椅子によりかかったまま、何の苦しみもなく眠るがごとくこの世を去った。遺志により、葬式は極めて簡素に行われ、また彼の属していた教会の習慣により、ごく静粛に、親族だけが集って、ハイゲートの墓地に葬った。丁度、夏の暑い盛りであったので、友人達もロンドン近くにいる者は少なく、ただグラハム教授外一、二人会葬したばかりであった[#「
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