しっかり[#「しっかり」に傍点]と、のみ込めない人であった。友人が新発見の話をして、その価値や、これの影響いかんというようなことを聞かされても、ファラデーは自分で実験して見たものでなければ、何とも返事が出来なかった。
 多くの学者は学生や門弟を使うて研究を手伝わせる[#「手伝わせる」に傍点]が、ファラデーにはこれも出来ない。「すべての研究は自分自身でなすべきものだ」というておった。
 ロバート・マレットが話したのに、十八年前にムンツの金属という撓《たわ》み易いが、ごく強い金属を硝酸第二水銀の液に漬けると、すぐ脆《もろ》い硬い物になることをファラデーに見せようと思って持って行った。ファラデーが早速この液を作ってくれたので、自分がやって見せた。ファラデーの眼前で[#「眼前で」に傍点]、しかもすぐ側で[#「すぐ側で」に傍点]、やって見せたのだから、まさか疑ったわけではあるまい。しかしファラデーは見ただけでは承知できない[#「承知できない」に傍点]と見えて、自分でまたやり出した[#「またやり出した」に傍点]。まずその金属の一片をとって、前後に曲げて見、それから液に漬け、指の間に入れて破って見た
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