月十七日。有名なボルタはこの時もう老人であったが、それでも頗る壮健で、遠来の珍客たるデビーに敬意を表せんとて、伯爵の大礼服[#「伯爵の大礼服」に傍点]をつけて訪ねて来て、デビーの略服にかえって驚かされた。
 コモ湖を過ぎてゼネバに来り、しばらくここに滞在した。

     一五 スイス

 この間に、友人アボットに手紙を出して、フランス語とイタリア語との比較や、パリおよびローマの文明の傾向を論じたりしたが、一方では王立協会の前途について心配し、なおその一節には、
「旅行から受くる利益と愉快とを貴ぶことはもちろんである。しかし本国に帰ろう[#「帰ろう」に傍点]と決心した事が度々ある。結局再び考えなおして、そのままにして置いた。」
「科学上の智識を得るには屈竟《くっきょう》の機会であるから、サー・デビーと共に旅行を続けようと思う。けれども、他方ではこの利益を受けんがために、多くの犠牲[#「多くの犠牲」に傍点]を払わねばならぬのは辛い。この犠牲たるや、下賤の者は左程と思わぬであろうが、自分は平然としていられない。」
 そうかと思うと、
「サー・デビーはヨウ素の実験[#「実験」に傍点]を繰りか
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