。これは減ずることは出来ない。またファラデーの熱心や能力に対して気の毒ではあるが、王立協会のただ今の財政では、これを増す余地は絶対にない」ということが書いてある。
しかしその翌年に、下院議員のジョン・フーラーという人が金を寄附[#「金を寄附」に傍点]してくれて、新たに化学の教授を置くこととなり、ファラデーを終身官として、これを兼任させた。その年俸百ポンドで、今までの俸給の上にこれだけ増俸した事になった。実験費もいくぶん楽になった。その後に俸給もまた少し増した。
ファラデーが年を取りて、研究や講演が出来なくなっても、王立協会の幹事は元通りファラデーに俸給も払い、室も貸して置いて、出来るだけの優遇[#「優遇」に傍点]をした。
実際、王立協会はファラデーが芽生で植えられた土地で、ここにファラデーは生長して、天才の花は爛漫《らんまん》と開き、果を結んで、あっぱれ協会の飾りともなり、名誉ともなったのであるから、かく優遇したのは当然の事と言ってよい。
三〇 ファラデーの収入
しかし、年俸一百ポンドと室と石炭とロウソク。これがその頃のファラデーの全収入[#「全収入」に傍点]であったか。否、ファラデーは前から内職に化学分析をしておったので、これがよい収入になっていた。一八三〇年には、この方の収入が一千ポンド[#「一千ポンド」に傍点]もあった。そしてこの年に、電磁気感応の大発見をしたのである。
それでファラデーは、自然界の力は時として電力となり、時として磁力となり、相互の間に関係がある。進んでこの問題を解いて大発見[#「大発見」に傍点]をしようか。それともまた、自分の全力をあげて、富をつくるに集中し、百万長者[#「百万長者」に傍点]となりすまそうか。富豪か[#「富豪か」に傍点]、大発見か[#「大発見か」に傍点]。両方という訳には行かぬ。いずれか一方に進まねばならぬ。これにファラデーは心を悩ました。
結局、ファラデーの撰んだ途は、人類のために幸福であった。グラッドストーンの言ったように、「自然はその秘密を段々とファラデーにひらいて見せ、大発見をさせた[#「大発見をさせた」に傍点]。しかしファラデーは貧しくて死んだ[#「貧しくて死んだ」に傍点]。」
三一 千五百万円の富豪
チンダルが書いた本には、このときの事情がくわしく出ている。収入の計算書[#
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