の本を読んだときに、面白いと思うた事を手帳に[#「手帳に」に傍点]書き抜いておったが、この頃からは自分の心に浮んだ考をも書き始めることにした。その中に次のようなのがある。
「磁気を電気に変えること。」
「金属の透明なること。」
「太陽の光を金箔に通すこと。」
「二つの金箔を電気の極にして、その間に光を一方から他方へ通すこと。」
 これらは、後になってファラデーのやった大発見の種子とも見るべきものである。
 後にこの手帳を製本させて、その表紙に書きつけたのに、
「予はこの手帳に負う処が多い。学者は誰れでもかかるものを集め置くのがよい。一年も引きつづいて、やっておれば、左まで面倒とは思わなくなるだろう。」

     四 ガスの液化

 一八二二年に、ファラデーは塩素ガスを液体[#「塩素ガスを液体」に傍点]にした。デビーは以前から、塩素の固体といわれているものは加水塩化物に外ならずというておった。ファラデーはその分析を始めたが、デビーに見せたら、「ガラス管に封じ込んで圧力を加えたまま、熱して見たらどうか。」と言うた。別に、どうなるだろう[#「どうなるだろう」に傍点]という意見は言わなかった。ファラデーはその通りにして熱して見たら、ガラス管の内には、液体が二つ出来た。一つは澄んで水のような物で無色である。他は油のような物であった。デビーの友人のパリスという人が丁度このとき実験室に来合せて、それを見て戯談半分に、「油のついている管を使ったからだ。」と言った。
 すぐあとで[#「すぐあとで」は底本では「すぐ あとで」]ファラデーが管を擦《こす》ったら、破れて口が開いたが、油のような液は見えなくなって[#「見えなくなって」に傍点]しまった。これは前にガラス管を熱したとき、塩素のガスが出たが自己の圧力が強かったため、液化してしまい[#「液化してしまい」に傍点]、油のようになっていたのだ。ところが、今管に口が開いて圧力が減じたので、再びもとの塩素ガスに[#「もとの塩素ガスに」に傍点]なって、飛散してしまったのである。
 翌朝パリスはファラデーから次の簡単明瞭な手紙を受け取った。
「貴殿が昨日油だと言われし物は、液体の塩素に相成り申候。 ファラデー」
 かく、自己の圧力を使うて液体にする方法は、その後デビーが塩酸に用いて成功[#「成功」に傍点]し、ファラデーもまたその他のガス体を液化
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