こから道は爪先[#「爪先」は底本では「瓜先」]上がりになっている。ここは月見坂というのである。その昔、栄華を極めた陸奥の武人たちが女人打ち連れて月見をしたというさまを想い浮かべてみた。老杉の梢で何鳥だか、かん高くないて去った。この坂のふもとにうす墨の桜というものあり。

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月見坂上り下りの武士の
心にしみつうす墨の花
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 辨慶堂、薬師堂を経て関山中尊寺に詣る。慈覚大師の開基なり

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古へを関とめけりなみちのくの
 関山寺の松に風吹く
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 なお行くほどに夏緑に包まれた山坊堂宇、みな昔を物語るもので、ことに宝庫に一歩足をふみ込んでは当時の美術工芸の進歩の跡を知ることを得るのである。
 われらはここにて念入りに研究の瞳を古き宝物にとどめた。その足ですぐ金色堂を見た。私はここに奥の細道の言葉を借りてくるのを適当とする。

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「兼ねて耳驚かしたる二堂開帳す、経堂は三将の像を残し光堂は三代の棺を納め三尊の仏を安置す、七宝散り失せて珠の風にやぶれ、金の柱、霜雪に朽て既に頽廃空虚の叢と
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