なぐさめてやったのはこの美しい魂の武人なのだ。
私は陸奥の山河は破れてもこの美しい主従の魂のうえに永久なる幸を祈ってこの丘を下った。束稲山の清峰には昔阿部頼時が桜一万株を植えたという。西行の、
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陸奥の国に平泉にむかひてたばしのねと申す山の侍るに、こと木は少きやうに、桜のかぎり見えて花のさきたるを見てよめる
ききもせず束稲山の桜花
よしのの外にかかるべしとは
おくになほ人見ぬ花の散らぬあれや
たづねをいらむ山郭公
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往時をしのびてしばし感慨無量であった。鉄路を横ぎって中尊寺のほうへ歩を運ぶ。坂の入口に辨慶松あり、苔の墓標には夏の陽がかげって、その側の石には、
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色かへぬ松のあるじや武蔵坊
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と、素鳥の句を録してある。
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年ふれど色は変らじ松が枝の[#「松が枝の」は底本では「松が技の」]
下露あびて墓標は立ちけり
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私は立往生をしたという衣川と、この天地とを比べて、快男子としての辨慶、忠臣としての辨慶を想った。
こ
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