道は言っているが、今はその一部は人家の下に夢をたたえ、一部には麦の穂の白い花が盛りでした。この一眸の田畑の中を北上川が流れている。即ち藤氏三代の栄耀の跡である。束稲山は北上川をへだてて青空の下に静かに往時の夢をむさぼっている。
 まず高館に登る。すなわちわが義経公の居城のありし跡なり。私はまず木像を拝し足下に流るる北上の激流を、絶壁の下にのぞき相対している束稲山をはるかにのぞんだ。
 老杉の間から夏緑の影が鮮かである。ここからは衣川の流れも北方の山々も何の遮るものもなく一眸に見える。
 義経の自刃の場所である。
 私は義経くらい心の美しい武士はないと思っている。そして義経を想うといつも彼を終わりまで助けてくれた佐藤庄司父子の武士らしい一生を夢よりも美しい物語として私は思い出すのである。その佐藤庄司の宅はあの向こうの山の中腹頃にあったのである。陸奥の山河は清い武士の心を育んでくれた。その清い武人を頼ってはるばる奥州へきた世にも美しい小鳥のような魂をもつ義経を彼らは育てあげていたのである。
 小鳥は巣立った。美しい小鳥は美しくとびまわった末、再び羽をいためて古巣を訪れたのだ。それをあくまで
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