なるべきを、四面新たに囲みて甍を覆ふて風雨を凌ぐ、暫時千歳の記念とはなれり。
五月雨のふり残してや光堂」
[#ここで字下げ終わり]

 私たちの訪れたときはよい天気だった。夏風や、夏草や、そこここの一木一草が、昔の夢おぼろに私たちの心の前に展開さしてくれた。

[#ここから1字下げ]
山鳥のなきて霊舎に夏陽さし
 静かに眠るみたまなりけり
[#ここで字下げ終わり]

 経蔵と釈迦堂、絵画堂などをみて毛越寺に下る。大堂宇の跡は楚石の数々に昔をしのぶに充分である。大泉池も葦の生えるにまかせて昔の夢を浮かべて夏草は一面にそよ風になびいている。

「国破れて山河あり、城春にして草青みたりと笠打敷きて時のうつるまで涙を落し侍りぬ
[#ここから1字下げ]
夏草や兵どもが夢の跡   芭蕉
卯の花に兼房見える白毛哉 曽良」
[#ここで字下げ終わり]

 私はかくして芭蕉師弟が夏草に坐して涙を流したる心境の一部に接することの得たことを喜ぶのである。
 ああ、平泉の山河よ、この山川草木一つとして生きた歴史の宿さぬものはなく、みななつかしい、しかも美しい武人の夢を宿しているのだ。あの美しい源氏の大将義経も、
前へ 次へ
全12ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
村山 俊太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング