どろむ人もあるだろう。

[#ここから1字下げ]
さみだれの降り残してや光堂
夏草やつはもの共が夢の跡
[#ここで字下げ終わり]

 ああそうだ待っている。まっている。夢の文化が待っている。緑につつまれた伽藍も待っている。美しかった人びとの夢、寂しかった人びとの夢が夏草と一しょにわれらを迎えているのだ。

[#ここから1字下げ]
すめらぎのみ代栄えんと東なる
 みちのく山に黄金花咲く
[#ここで字下げ終わり]

 こう万葉詩人大伴家持は詠んでいる。われらを待つみちのくの夢は寂しく、静かであるが、われらの結ぶ夢のいかばかり躍動していることか。
 おおさらば羽陽の人びとよ。風強ければ、火の用心怠りなく、さらば。
[#地から2字上げ](第一信 新山分校にて)

     四

 六月一日
 朝五時出発。
 低くおしよせた雲が雨をまいていった。旅で雨に遇うほど淋しいものはないのに、われわれもとうとうその淋しさに遇わなければならない。
「俺あ雨にあう気できたんだから……行こうや」
 和田校長が太い声でこう言ってみんなを元気づけた。
 まず新山校に別れを告げて、坂道にかかった。ここの家並みは昔の宿
前へ 次へ
全12ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
村山 俊太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング