王越しに吹きくる風の強ければ
雲の早きに心まどひぬ
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かくして五時四十分東沢分校に到着、山風凉しき階上に、香強き榛の花を賞しながら、山里の珍味に夕餉をすます。
夜一時間あまり和田校長の平泉郷土史の講話を[#「講話を」は底本では「講和を」]仰ぐ、われらの旅は、あくまでも旅なり、あくまでも旅行研究なり、一行緊張せること流石は専攻科たる所以なるべきか。
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茲にても我等を迎ふる人のあり
旅の暮れなり懐かしきかも
ひな乙女等のかざりし室の榛の香の
強く泌みけり山里の暮
疲れたる身に泌々と真白なる
花の香の胸うちにけり
胸うちし真白き花よ榛の名花よ
ひな乙女なる香の放つなる
知らぬ地の窓辺近くにオルガンを
ひけば心もすみ渡りけり
遙々とわが家はなれし山里に
ふく山風のさみしかりけり
[#ここで字下げ終わり]
かくして九時半「世之助伍長」の軍隊式号令にて就寝。
風強し、心不安、また不安、雨落つ、ますます不安、夢は故郷か、旅先か、父母兄弟、また妻を子も案ぜらる人もあるに違いない。
また旅の先ざきに胸さわぐあこがれをま
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