ず酒振舞をしたり。……それだけなら、まだいいのですが、ねだられるとだれにでも金を呉れてやる。それも、生優しい金でないのです。……この辺では、先生のことを『中央銀行《バンク・サントラール》』といっています」
「これは、驚きました。馬鹿もいい加減にしておいてもらいたいもんだ」
「そうですよ。……この辺の住人ときたら、まるで鬣狗《ハイエナ》のような貪婪《どんらん》なやつばかりですから、そんなことをしていたら、それこそ骨までしゃぶられてしまいます。一旦喰い下ったとなったら最後まで離しはしませんから……。先生の世間見ずをいいことにして、その一例として、ある二、三人のやつらが、『藁麺麭《パン・ド・パイユ》』という出鱈目なものを捏ね上げて、先生に発明権を買わせようとしているんです。……藁《わら》を摺り潰してパルプをつくり、それをフェナルチン・アドという薬品で処理すると小麦粉と同様のものができるというのですが、フェナルチン・アドなんてのがそもそも出鱈目なんで、そんな薬品はどこにもありゃしない。実際のところ、それは薬でも何でもなくて、ごく上等の小麦粉それ自身なんです。初めっから藁に小麦粉を混ぜるんですか
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