犂氏の友情
久生十蘭

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)蒼《あお》い

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)蒼|褪《ざ》めた

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)磅※[#「石+(くさかんむり/溥)」、第3水準1−89−18]
−−

      一

 山川石亭先生が、蒼《あお》い顔をして入って来た。
「どうも、えらいことになりました」
 急々如律令《きゅうきゅうにょりつれい》といったていで椅子に掛けて、ぐったりと首を投げ出している。
 スパゲティを牛酪《バタ》で炒《いた》めている最中で、こちらも火急の場合だったが、石亭先生の弱りかたがあまりひどいので、肉叉《フゥルシェット》を持ったまま先生のほうへ近づいて行った。
「先生、どうしました。ひどく蒼い顔をしていますね」
「実にどうも、二進《にっち》も三進《さっち》もゆかないことになって……」
 先生はうっすらと汗をかいて、両手の中で手巾《ムウショアール》をごしゃごしゃにしたり、引っ張ったりして
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