人の連なる縁で、こっちもすっかり赤面し、咄嗟《とっさ》に何と答えていいか、ただ眼玉をウロウロさせるばかり。とんと挨拶の言葉もないありさまだった。
 石亭先生のお陰で、これまでにもたびたびひどい恥を掻いたことがあるが、こういう非凡なのはこれが初めてだった。馬鹿馬鹿しくて話にならない。いかにも先生が憎らしくなって、何もかも一切カラスキーにぶちまけてしまった。
 カラスキーは、ふふ、と小刻みに笑ってから、まるで自分のことのような親切な口調で、
「先生としては、ここの空気に同化しようとして、一所懸命なすったのでしょうが、こんな場所で、あんな出鱈目をいうのは、すこし無考えすぎるようです。うまく利用されて、どんなひどい破目に陥し込まれないものでもないから」
「いちいち、ごもっともです、毎度のことながら、先生には弱らされます」
 カラスキーは、陰鬱とも言えるような物静かな口調で、
「ともかく、先生は、ここで、毎日、むやみな金づかいをしていらっしゃるんですよ。……こんなこともご存知なかったでしょうね」
「えッ、金を、どう使うんです?」
「毎日、大餐宴《バンケ》をやったり、ここへやってくる人間に一人残ら
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