ひとつずつ上ってゆくんです。このごろは、金高のほうも相当莫大になりましてね、二十万|法《フラン》ばかりのところへ行っているんです。……人間《ひと》もだいぶ殺しましたねえ。わたくしの知ってるところでは、坊さんが三人、タキシーの運転手が二人、歯医者が一人に造花屋の女工《ミジネット》が一人。……だいたい、こういった塩梅《あんばい》なんです。たいへんな虐殺です。ここへ来る連中も、とても先生には敵《かな》わないということになってしまって、まるで腫物にでも触るようにビクビクして、うっかりそばへも寄りつけないようなありさまなんです。実際ね、先生にとっ捕まっちゃ百年目。この世に有りとあらゆる悪事の総|浚《ざら》いをされるんだから、たいがい茹《ゆだ》ってしまうのです。放っておくと手に負えないことになりそうなので、今日の昼、出鱈目なことを言って、ちょっと先生を威かしてみたんですが。……どうです、薬が効いたようでしたか? あの臆病な先生のことだから、さぞ、仰天なすったことでしょうね」
いやはや、とんだことを聞くものだ。先生が、こんなところでそんな馬鹿の限りを尽していられようとは、さすがに知らなかった。同国
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