られてばかりいてしょうがないと思ったので声に力みをつけて、
「おれは、山川石亭の甥だが、ゴイゴロフといううんてれがん[#「うんてれがん」に傍点]にちょっと言伝《ことづけ》を頼まれてやって来たんだ。ついでだから言っておくが、叔父の身代りに四、五日ここへ泊るつもりだから、そのつもりでいるがいい」
 と、威勢よくまくしたてた。少なくとも表面はそう見えたのである。
 青前掛のゴオルキイは、鼻翼《こばな》をふくらませて、ふうん、と嘶《いなな》いてから、
「おめえは、あの禿頭の甥ッ子か。なるほど変った面をしていやがる。まるっきり、河沙魚《グウジョン》だぜ」
 と、失礼なことを言った。
 しかし、こういうのがこの辺の気質なのだと思えば、腹も立たない。もっとも、腹を立ててみても、迂闊にそういう表現はできないのだから、煎じつめたところ、同じことのようである。
「よく皆がそう言うね。頭でっかちで骨ばっているところなんざ、セーヌ河の河沙魚《グウジョン》のようだってね。たいして面白くもねえ。何かもっと変ったことを言ってみたらどうだ。……そういえば、おじさん、おまえは海象《モールス》に似てるねえ、やっぱり、あッ
前へ 次へ
全31ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング