ちのほうから流れ寄って来たのかい」
ゴオルキイは、とつぜん、咽喉仏が見えるほど大口を開いて、ふわァと笑い出し、
「畜生め、海象《モールス》とは、うめえことを言うじゃねえか。ふん、こいつァいいや」
そう言って、みなが食事をしているほうへ向って、
「おい、ピポ! この|悪たれ野郎《コキャン》がおまえに喋言《ジャボテ》してえそうだ。|掻喰い《ブウロタアジュ》がすんだら、こっちへやってきねえ」
と、怒鳴った。
「おい、兄《あん》ちゃん、何かひと口しめしなよ。鸚鵡《ペロケ》でもやろうか」
鸚鵡《ペロケ》、……どうせ、何か飲物の隠語だろうが、学校の悪たれどももさすがにこうは言わない。向うみずに引受けると、どんなものが飛び出してくるかわからない。やんわりと辞退した。
「まあ止めておこう」
「じゃア、石油《ペトロール》はどうだ」
「ガソリンや石油はなるたけ飲まないようにしているんだ」
「何を言ってやがる、このボケ茄子《なす》め、おいらのところの火酒《ペトロール》にガソリンなんざ入ってやしねえやい。ふざけたことを言いやがるとぶッ叩くぞ」
これはどうも、そろそろいけなくなってきた、と、薄ら寒くな
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