はずだのに、扉が二寸ほど開いている。
竜太郎は、急に顔をひき緊めると、扉の隙間に耳を当てて、内部のようすを窺った。誰か、部屋の中にいる! 跫音を忍ばせながら、微妙に動きまわっている。
竜太郎は、一挙に扉を押し開けると、部屋の中におどり込んで、机の抽斗に跼み込んでいる男の肩の上へ襲いかかった。竜太郎の逞ましい膝頭の下で、闖入者が鋭い悲鳴をあげた。しなしなした小さな身体だった。
襟髪をつかんで、力まかせに窓ぎわまで引きずって行き、あいた片手で、窓掛を押し開けた。
ヤロスラフ少年だった!
乱れた髪を、眉のうえに垂らし、首をさげて、しょんぼりと立っている。
竜太郎は、ヤロスラフの顔を眺めていた。意外なようでもあり、また、当然のような気もした。王女の写真を盗んだのは、やはり、ヤロスラフ少年だった。
「写真を盗んでいったのは、君だったんだね、ヤロスラフ君」
ヤロスラフ少年は、かすかに、うなずいた。
「いったい、何のために?」
返事は、なかった。
「言いたまえ!」
「……」
勃然とした怒りがこみ上げてきた。ヤロスラフの肩を掴んで、
「言え! 言わないと、殺すぞ」
ヤロスラフ少年は
前へ
次へ
全100ページ中91ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング