の側から、大勢の重々しい跫音が歩調をとりながら近づいてきた。
 監房の扉がひき開けられ、二十四五の、美少年とでもいうべき、林檎のような赤い頬をした若い士官を先頭にして、一隊の兵士が入って来た。
 監房の中の二十人は、二列縦隊に並ばされ、八人の兵士がその両側に附き添った。
 この陰気な行列は、ところどころに水溜りのある暗道《ポテルン》を粛々と歩いて行った。先頭の美少年の士官の歩調だけが、ひどく快活で、何かしら、それが、滑稽に見えるのだった。
 一同が引き出されたところは、広々とした砲台の営庭だった。正面に角面堡《ルタン》の高い壁がつづき、遠いその端に、糸杉の黒い列があった。
 夜はまだすっかり明け切らず、薄い朝霧が、煙のように営庭の中に流れていた。灰白色と黒だけの風景。独逸表現派の陰気な画材に似ていた。
 二十人は、角面堡の混凝土《コンクリート》の長い壁にそって、二間おきぐらいに立たされた。竜太郎は五番目だった。その右隣りにアウレスキーがいた。
 宣告文はわずかに二行ぐらいですんだ。竜太郎も、他の十九人のリストリア人と同じように、反逆罪人のなかに加えられた。異存はなかった。
 小太鼓《タ
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