ンブール》が急《せ》き込むような調子で、打ち鳴らされた。
 若い士官が、爽やかな声で叫んだ。
「狙《ね》ッ」
 兵士が一斉に銃を取りあげる。レヴュウの練習のようにキチンと揃っていた。
「撃《て》ッ」
 ズズン、と、下腹に響くような鋭い銃声が起り、暫くしてから、ゆっくりと銃口から白い煙が湧きだした。
 最初の青年は、瞬間、背伸びするような恰好をし、それから、身体を斜にして、右の肩からのろのろと前に倒れた。
 竜太郎は、その方へ顔を向けて、仔細に眺めていた。……ちょうど、ゴヤの『銃殺』の絵とそっくりだった。ただ、鳥毛のついた軍帽と赤縞のズボンのかわりに、ここでは、鉄兜と灰色の外套であるだけのちがいだった。
 小太鼓の続け打ち。……遊挺のガチャガチャ動く音。……「狙ッ、撃ッ」……銃声。……それから、白い煙。……
 これだけの簡単な操作を、単調に繰り返すだけだった。何か途方に暮れるような、あっ気なさだった。
 竜太郎の左隣りの老人が、赤児の泣くような叫び声を上げながら崩れるように横倒れになった。竜太郎の耳には、はっきりと、おぎゃアと聞えた。
 いよいよ、竜太郎の番になった。小太鼓が鳴り出した。
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