して、ステファン五世の王甥、イヴァン・チェルトクーツキイを登位させるためです」
心の中の痛恨をおし鎮めようとでもするかのように、やや長い間瞑目したのち、突然、若々しい、熱情的な口調になって、
「そこで、われわれは、機先を制した。……ステファン五世の不例を口実にして、機動演習の延期を命令し同時に軍司令部と参謀本部の方略的乖離を計画して、これに成功しました。敵側にとってこれは、非常な打撃だったのです。……われわれは、第一撃に成功した。しかし、当然あるべき第二撃を行わなかった。紛擾をある程度でとどめて置きたい、微温的な感情が、それを躊躇させたのです。われわれが二度目の攻撃的攻撃に移ろうかどうかと気迷いしているうちに、敵は新たな“|切り返し《リポスト》”の手を考え出した。ステファン五世急逝の報知でエレアーナ王女殿下がマナイールに到着された日、一士官を使嗾して王女の自動車に発砲させました。不幸なことには、それが、参謀本部に隷属するいわゆる、われわれの一味だった。……ポチョムキンはそれを口実にして、臨終の際に作成された勅令をふりかざし、軍令部が独裁権《イニシアチヴ》をとって、即時に戒厳令を実施し
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