跪いて祈っていた。
 ほかの人たちが次ぎつぎにそのほうへ歩いて行って、祈りの度に加わった。そして、その後で、深い静寂が来た。虚無のように深い沈黙だった。
 老人は、額に手をあてて黙然と俯向いていたが、ややしばらくののち、静かに顔をあげた。
「われわれは、失敗しました。主要な原因は、われわれが信念を欠いていたという一言につきると思う。われわれの同志のなかに、一種の自己満足からくる、眼に見えぬ微妙な対立があった。最もいけないのはわれわれ自身、それに気がついて居なかったということです。われわれ、つまり、王党派《ロワイヤリスト》は、いつの間にか、個人主義に染色され、ついで、意志細胞内に分裂が起り、役にも立たぬ反省となまぬるい人道主義のなかで足ぶみをしているうちに、とうとう、時機を失してしまったのです」といって、ちょっと言葉を切り、
「この国は一四一二年以来、五世紀にわたってスタンコウィッチ家が統治していますが、この家にはいつも男児がないので女帝が登位して、しかるべき家系から女婿を迎えることになっています。ところで、一九一七年の十七日に、アン女王殿下が落馬の負傷で薨去されましたが、当時エレアーナ
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