のうちに、竜太郎は、どうにも辛抱が出来かねる気持になってきたので、思い切ってそのそばに進みよると、こんふうに[#「こんふうに」はママ]、声をかけた。
「たいへん、失礼ですが……」
婦人は、ビクッと神経的に肩をふるわせて急にこちらへふりかえると、まだ夢から醒めきらぬひとのようなぼんやりした表情で、竜太郎の顔を見あげた。その頬に、涙の痕が光っていた。ようやく二十歳になったくらいの若い娘だった。
なんという、※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《ろう》たけた面ざしであろう。
ブロンドの柔毛のような髪が、すき透るような蒼白い顔のあたりに三鞭酒色《シャンパン》の靄をかけ、その中に吸い込まれてしまうような、深みのある黒い大きな眼のうえで、長い睫毛が重そうにそよいでいる。
なににもまして、驚かれるのは、たとえようもない貴族的な美しい鼻と、均勢のとれた楕円形《オブアール》の顔の輪廓だった。近東の古い家系の中で稀れに見られる『|美の始源《オリジン・ド・ボオテ》』という、あの高貴な顔だちだった。ロオレンスでさえも、このような※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−9
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