愚問だった。
ヤロスラフは、それには答えずに、
「……ステファン五世王が二月二十五日にお薨れになったので、エレアーナ王女殿下が御登位なさるのです」
(二月二十五日!)
竜太郎が、この日を忘れるはずはない。二月二十五日というのは、土壇であの少女に逢った日のことだった。
竜太郎は、夕暮れの窓のそばに坐って、カルヴィンの「リストリア王国史」を読んでいた。
沈みかけようとする夕陽が団々の雨雲を紫赤色《モーブ》に染めあげていた。
[#ここから3字下げ]
……一四一二年、スタンコイッチ一世が登位して以来、この王系は、一九一四―一八の世界大戦によって惹き起されたバルカン半島における政治的乃至領土的紛擾の際にも、王位の干犯を受けることなく、連綿、五世紀に亙ってこの国を統治している。……一八八九年、アレクサンドル・オベノイッチ五世は露国皇后の女官ナジーヤ・スコロフを妃として、二女を挙げた。一九〇九年、エレアーナ女王殿下。ナターシャ女王殿下は三年後に生誕した。その年、九月一七日、アンナ女王が狩猟中落馬をして葩去されたが、エレアーナ女王殿下がまだ幼少だったのでステファン家のウラジミール・ポポノフ
前へ
次へ
全100ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング