あてはずれなら、全世界に散らばっているあとの十五人を探すために、長い旅に出かけなくてはならない。――ロンドン、ベルリン、リスボン、マドリッド、ブリュッセル、ニュウヨルク……etc.
 それは、ほとんど不可能に近いことだ。もう、このくらいで、捜すことはあきらめなくてはならないのではないか。
 竜太郎の心の上に、あの少女の俤が、影と光を伴って、また生々と甦ってくる。
 あんなにも美しく、あんなにも優しく、あんなにも心の深かったあの娘。……はじめて女の叫び声をあげたあの唇。ひとの心を吸いとるようなあのふしぎな黒い眼。楊《やなぎ》の枝のようなよく撓《しな》うあの小さな手。……あの娘にもう逢うことが出来ないのかと考えると、そう思っただけでも、頭の中のどこかが狂い出しそうな気がする。
 竜太郎は、両手で顔を蔽うと、喰いしばった歯の間で呻く。
(あきらめない! どんなことがあっても、かならず探し出して見せる。たとえ、世界の涯まで行ってでも……せめて、もう一度だけ! たった、一度だけでいいから!)
 心が激してきて、われともなく立ち上って、巴里の上に両腕を差しのばしながら、叫んだ。
「どこにいるんだ?
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